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その次は「角屋」の婆さんと言われている年寄っただるま茶屋の女が、古くからいたその「角屋」からとび出して一人で汁粉屋をはじめている家である。客の来ているのは見たことがない。婆さんはいつでも「滝屋」という別のだるま屋の囲爐裡の傍で「角屋」の悪口を言っては、硝子戸越しに街道を通る人に媚を送っている。
「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」
道平はゆつくりと首を動かして訊いた。
「さう。――いゝやうだ」
「先づそのうちには、町内の様子もいろいろお解りになることでせう。これでなかなか面倒なこともありましてな」
川沿ひから分れた路は段々になつた切株だらけの乾田に沿つて、次第上りに、両側はゆるやかな山合ひに切れこんでいた。
「や、失礼、おさきに」
房一は手答へのないのを感じた。
自動車が動き出した時、練吉は唇のはしをびりびりさせ、あの切れ目の顔に何かしら水をかけられたやうな表情になりながら、
「まさか!」
「どうも、済んまへんでした」
房一は慌てて、診察にかゝつた。その後で彼は云つた。
「今日からお隣へ参りましたから、よろしく願います。」